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Case 04 何でもいい。でも、それは嫌(1/3)

Author: Amy
last update publish date: 2026-09-29 08:01:26

「いらっしゃいませ」

私は、目の前の女性に椅子を勧めた。

「本日は、旦那様ですか? 彼氏様ですか?」

「夫です」

「かしこまりました」

女性は握っていたスーパーのチラシを、少し乱暴にテーブルへ置いた。

私は新しい受付票を取り出す。

受付番号:004

藤井理恵、44歳。夫46歳。結婚17年。高校生の娘が1人。

赤いペンのキャップを外した。

「ではまず――今日、何をされました?」

「何でもいいって言われました」

「何がです?」

「夕飯です」

私はまだペンを動かさなかった。

それだけなら罪状にはならない。

理恵さんも分かっているようで、すぐに続けた。

「だから『カレーでいい?』って聞いたんです」

「はい」

「昨日、会社の食堂で食べた」

「では?」

「魚にする?」

「今日は魚の気分じゃない」

「麺類は?」

「昼ラーメンだった」

「鍋?」

「今日ちょっと暑くない?」

「丼もの?」

「重い」

私はようやく受付票へ書いた。

本人申告:何でもいい

その下へ、

実態:何でもよくない

と追記する。

理恵さんが覗き込んだ。

「そう! そこ!」

「最終的には?」

「私も腹が立って、『じゃあ何がいいの?』って聞いたんです」

「ご主人は?」

彼女は夫の低い声を真似した。

「だから、何でもいいって」

私は「妻の我慢度」を一つ増やした。

★★☆☆☆ → ★★★☆☆

「あ、増えた」

「適正値です」

「しかもね、これ毎日なんですよ」

夫は帰宅すると決まって冷蔵庫を開ける。

夕食がすでに並んでいても、

「今日これ?」

と聞く。

「何か不満?」と聞けば、

「別に」

と言う。

でも食べながら、

「最近、肉多くない?」

翌日魚を出すと、

「骨あるんだ」

さらにその翌日、丼物にすると、

「今日は汁物ないの?」

私は書き足した。

常習性:常習

症状:決定権は妻へ。批評権は自分へ。

理恵さんが笑った。

「ほんと、それ!」

「ちなみにご主人が夕食を担当することは?」

「あります」

「その時は?」

「スーパーのお寿司」

「毎回?」

「ほぼ」

私は一瞬考えて、

料理に対する要求水準:妻にのみ適用

と記入した。

「それも書くんですね」

「公平を期すためです」

「私、別にご馳走を作ってるわけじゃないんですよ。ただ、仕事から帰って、冷蔵庫見て、家族の予定考えて、昨日と重ならないようにして……」

彼女はスーパーのチラシを指で押さえた。

「毎日決めるのが一番面倒なんです」

私は頷いた。

献立は、作り始める前から始まっている。

買う。

残りを見る。

栄養。

好み。

時間。

明日の弁当。

それらを全部考えた最後に、

「何でもいい」

と言われる。

そして本当に何でもいいわけではない。

「離婚したいわけじゃないんです」

「はい」

「ただ一度でいいから、自分で全部決めろって思う」

私は黒いメニューブックを取り出した。

WRITING KILL MENU

「藤井様」

「はい」

「本日は、その願いに適したコースがございます」

「あるんだ」

「何でもございます」

理恵さんが吹き出した。

私は静かにページを開いた。

「では、本日のメニューをご案内します」

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